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佐藤:ビジネスでもプロジェクトを進めていく上で、一番大切なのは「目標を立てること」であるといわれています。PWAにも「目標を設定する」ことがプロジェクトの始まりになっているのですが、古田さんはどのような目標を設定しているのですか。
古田:僕が監督として、あるいは選手として設定している目標は「勝つこと」です。監督として、バッターとして、キャッチャーとしていろんなことを考えますが、それらはすべて「勝つこと」に向かっています。

佐藤:仕事をする上で、複数の異なる価値観を持つメンバーをまとめながら、共通のゴールに向かってプロジェクトを進めていくことはとても難しいです。チームの中にも野球に対していろんな考え方を持っているメンバーがいると思いますが、監督であり、キャッチャーである古田さんの考えをどのようにチームの中で共有しているのですか。
古田:実は試合ごとの細かい作戦まではチームのメンバーの間で共有していません。当然監督の意思と現場の意思が異なるときもあります。監督が「打て!」という指示を出しているのですが、選手自身は「バントがしたいのにな」と思っているケースなどよくあります。こういうときのために、普段から「うちは打って勝つチームなんだ」とか「うちは1点とって、あとはきっちり抑えて勝つチームなんだ」という大方針を共有しておき、チームの中に雰囲気を作っておくことはとても大切だと思っています。玄人的な技で細かくつないでいく野球が評価される日本と、派手で大味なプレイが好まれるメジャーリーグの野球とではチームや観客の価値観も違いますから、チームの気持ちを同じ方向に向けておくことは意識していますね。

佐藤:古田さんはよく「準備が勝敗を分ける」といわれています。試合に勝つためにいつも考えていること、準備していることとはどんなことですか。
古田:そうですね。準備をしっかりやったら勝てると思いますし、もし負けたとしても納得できます。次回に活かすことができます。よくデータ野球の大切さについて言われることがありますが、大事なのはどんなデータを収集し、そのデータをどのように活かすのかということです。データがたくさんあればいいというものではありません。当たり前のことですが、勝つためには試合終了時点で相手より1点でも多くとっていることを目指します。1試合に9イニングありますから、8回が終わった時点で相手に1点でも勝っていれば9回は抑えのピッチャーが投げます。これはうちの必勝パターンですから、もしこれで試合に負けたとしても仕方ありません。相手のほうが上だったんだと納得できます。従って勝負はいかに相手をリードして9回を迎えるかということにかかってきます。つまり勝負は8イニングの間に決まっているのです。もし7回が終わった時点でこちらが勝っていたら8回はこういう中継ぎ投手を使おうと考えます。これもうちのパターン。もしこの時点で試合に負けていたらまた他の方法を考えますが、僕の中ではいかに7イニング終わった時点で相手をリードしておくか、ということがとても大切です。
佐藤:なるほど。最終回で1点リードしておくためには、8回まで何をし、7回までに何をし、6回までに何をし、という風に逆算して考えているわけですね。
古田:そうです。で、そう考えていくと、要するに試合で勝つためには「先発投手が何イニング投げられるか、そしてその間に何点とられるか」ということが一番の焦点になります。ですからエースが投げるときとエースじゃないピッチャーが投げるときで作戦は変わります。たとえば「今日の先発投手なら6イニング投げて、その間に2点くらいは取られるだろう、だからうちは前半で3点とるためのバッティングを考えよう」といった風に、ピッチャーの実力やコンディションを考えた上で、前半戦の予想をたて、中継ぎ投手の作戦を考え、バッティングに関する作戦を考えて、試合を組み立てていくわけです。
佐藤:常にベストメンバーで試合ができるわけではないですものね。ビジネスにおいても資金や人材や時間にゆとりのあるプロジェクトばかりではないですから、常にケースに応じた作戦を立てる必要があるというのに似ています。たとえばバッティングにおける作戦のパターンではどういうものがありますか。
古田:たとえば1番バッターがヒットを打って出塁した場合、よく2番バッターの目的は「バントをして1塁ランナーを2塁に進めることである」と思われていると思います。いわゆる「送りバント」ですね。しかし僕の場合、こうときにバントをするかどうかはそのときのチームのコンディションによって判断しています。たとえば2003年まで読売ジャイアンツで活躍した有名な川相昌弘選手は2番打者として世界で一番送りバントを成功させましたし、80年から90年代にかけて優勝を続けていた頃の西武ライオンズも送りバントを得意としたチームでした。当時のジャイアンツやライオンズがこういうケースのときにほとんど必ずといっていいほど送りバントを仕掛けてきた理由は、投手力がとてもよかったからです。投手力のいいチームは、とにかく1点とっておけば、あとはピッチャーが抑えてくれるという信頼があるわけです。だからバントできっちりとランナーを前に進めて、1点を確実に狙いに来る。それに対してヤクルトのホームグラウンドである神宮球場は、球場の広さの関係でホームランが出やすいといわれています。従ってある程度の失点は覚悟しなければならない。イケイケドンドンの作戦ばかりではダメですが、ある程度たくさん点を取らなければならないので、1塁にランナーが出ればどんなときでも送りバントさえしておけばいいというわけでもないのです。
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